「DTMで打ち込みを始めたいけど何をすれば良いかわからない」という方は多いと思います。DTMつまり作曲を楽しむ際には、DAW(Digital Audio Workstation)ソフトは必須といえるものです。しかしDAWといっても様々なソフトがあり、何が違うかわからず、どれを選ぶべきかは迷うことでしょう。ここでは筆者の経験をもとに、DAWソフトを選ぶポイントやおすすめのソフトを紹介していきましょう。
DTMとDAWの違い
まず、DTMとDAWというよく似た単語の違いから説明しておきましょう。
DTMとは、DeskTop Music(デスクトップ・ミュージック)の略であり、パソコンで音楽を作ることを指します。
一方、DAWとは、Digital Audio Workstation(デジタルオーディオ・ワークステーション)の略です。「ディーエーダブリュー」「ダウ」などと呼び、これはDTMに必要不可欠な楽曲制作用のソフトウェアを指しています。
現代の音楽制作では、DAWの内部でギターやベース・ボーカルのレコーディングをしたり、シンセサイザーやピアノといった音源をソフトに打ち込んだりと、制作する音楽の完成度を高めるためには欠かせない存在となっています。
なお、楽譜作成ソフトが気になる方はこちらから。

DAWは作曲に必要?
DAWがあれば、自宅で一人でもプロ顔負けのクオリティで音楽制作を行うための環境が整うわけですが、もちろんスタジオでのレコーディングに使うこともできます。
実際、ステレオでのプロミュージシャンのレコーディングや、コンサートホールにおけるオーケストラのレコーディングでもDAWが用いられていますから、DAWは机上での音楽制作というよりも、コンピューターを使った音楽制作ツールという意味で必須と理解しておくのがいいでしょう。
DAWには特徴的な機能が3つあります。
- 打ち込み機能
- 多重録音機能
- ミックス機能
打ち込み機能
DTMといえばあまり詳しくない人にも「打ち込み」という言葉が連想されるようですが、そもそも打ち込みとは何なのでしょうか?
「打ち込み」という言葉は1980~1990年ごろ、シーケンサーと呼ばれる特殊な機器を使いシンセサイザーを自動演奏させるためのデータを電卓のようなテンキーで打ち込んでいたことに由来し、その様子からそのまま「打ち込み」と呼ばれるようになりました。
打ち込み機能のひとつに、自動演奏するためのデータを入力する機能があります。これはパソコンの画面上でピアノロールで行うことがあれば、譜面入力をすることもありますし、昔ながらの方法で数字を使って入力していくこともあります。また、1音1音細かく入力するだけでなく、外部に接続したUSB-MIDIキーボードと呼ばれる鍵盤を用いて演奏した情報をデータとして入力する方法もあります。これはDAWソフトの種類によっても違いのある点です。
打ち込み機能のもうひとつの機能が音源機能です。DAWが世に出てきた当時は外部接続したシンセサイザーを制御するための機能でしたが、現代ではパソコンを使うことで、ソフトウェア上でシンセサイザーを実現させることができます。
シンセサイザーといっても、テクノサウンドだけでなく、アコースティックと言われても本当の楽器と区別がつかないほどのピアノやギター、トランペット、バイオリン、ドラムなどの音が出せるようになっています。
音源機能はDAWに標準で付属しているもののほか、プラグインとして様々な音源を追加できるようになっています。ただし、その規格はVST・AudioUnits・AAXなどがあり、最初のうちは使いこなすことが難しいかもしれません。
多重録音機能
多重録音とは文字通りであり、音を重ねながらレコーディング(録音)していくことを意味しています。
例えば一人で音楽制作をする場合を考えてみましょう。いろいろな楽器が弾ける人でも、同時に複数の楽器を鳴らすことは控えめに言って難しいですよね。多重録音機能があれば、まずはドラムだけを録音し、次に録音し終えたドラムの音を聴きながらベースを録音、そしてギターにキーボード、ボーカルというように、さまざまなパートをそれぞれ別のトラックとして重ね録りしていくことができます。
現代ではDAWでなくても動画編集ソフトを使って重ねていくことも可能です。しかし、細かいエフェクトの調整はやはり音を専門とするDAWに軍配が上がります。

ミックス機能
3つ目はミックス機能です。これは先ほど見てきた打ち込み機能・多重録音機能で作った各トラックをバランスよくミックスするための機能を表します。
プロの現場では「レコーディングエンジニア」「ミックスエンジニア」と呼ばれる人たちが行う作業であり、何十万円以上する「ミキシングコンソール」という大きな機材を使い操作を行うものですが、DAWではそれらの作業をすべて画面上で行うことができてしまいます。
DAWソフトの選び方
必要な機能があるか
楽譜作成ソフトとひとことで言っても、それぞれ異なる個性があります。
最近のDAWをどれも高機能であり、初心者には曲を作る上でDAWソフトの長所短所を感じることはないかもしれません。それでも自分の目的によって、初心者向けの無料ソフトですべて充足する場合もあれば、プロが使うような高機能ソフトが必要な場合もありえます。
機能面での具体的な違いとしては、得意分野(ジャンル)、グレード、付属音源やエフェクトの質といったポイントがあります。
DAWにはそれぞれ得意分野があり、作りやすいジャンルも変わってきます。Ableton LiveやFL Studioはダンスミュージックが得意、ProToolsはオーディオ編集が得意と言われます。特定のジャンルで曲を作ることを考えているのであれば、そのジャンルが得意なものを選ぶ方が無難です。作業効率アップや情報交換もしやすくなるでしょう。
同じメーカーから出ているDAWでもシリーズの中で下位グレードや上位グレードがあり、値段や機能が変わってきます。Cubaseで言えば、上位バージョン「Cubase Pro」と下位バージョン「Cubase Artist」では価格が2万円近く違い、上位グレードにしかついていない機能もあります。グレードによって何が変わってくるかをしっかりとチェックしましょう。
また、DAWにはエフェクトや音源プラグイン、ループ素材などが標準で付属しているものが多いです。初期費用を抑えたい方でも、デフォルトの付属音源やプラグインが充実したものを購入すれば本格的な音楽制作がすぐに始められます。DAWに付属している音源やエフェクトの質が高ければ、最初からクオリティが高い作品が作れるので、こちらもチェックしておきましょう。
有料/無料
DAWソフトには無料のものもあり、機能も無料と思えないほど充実しています。安易に有料ソフトを購入する前に、まずは無料ソフトの機能を確かめることをおすすめしています。
また、有料ソフトも無料でトライアルとして利用できる場合があるので、購入前にぜひ利用して使用感を確かめてみましょう。
有料ソフトといっても、数千円から数十万円以上のものまでピンキリです。価格に惑わされず、搭載機能を確認し自分にあったソフトを選びましょう。
利用する機器との相性

利用するパソコンのOS(Windows、Macなど)のバージョンに対応しているかを確認しましょう。ソフトの中には、特定のOSやバージョンにしか対応していないものがあります。
そして入力支援のために外部入力に対応しているかも重要になってきます。打ち込みに慣れている方であればパソコンのキーボード入力でも問題にはなりませんが、多くの方にとっては鍵盤入力や専用機器を使う方が効率がよいでしょう。
また、使う予定のファイル形式にソフトが対応しているかどうかを確認しましょう。これは使うソフトの種類を変更したときや以前まで古いバージョンのソフトを使っていた際に、ファイルの「互換性」が切れてしまうことがあります。互換性のないものを買ってしまうとそれまで使っていたものを適切に読み取れなかったり、最悪ファイルを壊してしまったりすることがあります。
他にも楽譜作成ソフトで作成した楽譜データを読み込む機能の有無についても必要性を検討しましょう。
多くの人に使われているか
見落としがちなポイントが、そのソフトがどれだけ広く使われているかという点です。
特に初心者の場合、あまりにもマイナーなソフトだとユーザーの口コミ情報が少なく質問しても欲しい回答が得られないなど、トラブルシューティングやノウハウが見つからないことがあり、あまりおすすめできません。
また、利用者が少なければソフトを提供する側のニーズもなくなるため、バージョンアップなどの対応が停止されてしまう可能性もあります。
ある程度知名度があり、ユーザー数の多いソフトの利用をおすすめします。日本語のサポートや情報が充実していればなおよいでしょう。
ここからは実際に筆者が使い、実用に耐えうるソフトを紹介していきましょう。もちろんここに挙げたもの以外にもソフトはいくつか存在しますが、それらは珠玉混交、はっきりおすすめできないものもあるのです。
また、これは注意点ですが、購入・インストールする際には必ず最新版のソフトを選びましょう。中には少し古いバージョンが安価な中古品としてオークションに出されていることもありますが、新しいパソコンに対応していないことや、ライセンス認証ができないなどの問題が発生することがあります。
おすすめDAWソフト4選
Cubase

1989年にMIDIシーケンサとして登場したCubaseはDAWの老舗であるSteinbergが提供するソフトです。日本国内シェアはトップクラスで、プロ・アマ問わず多くのミュージシャンが使用しています。DAWソフトの比較は基本的にCubaseに比べることになりますので、詳しく見ていきましょう。
高機能でなんでもこなせる
Cubaseの特徴としてまず挙げられるのが、なんでも高機能にこなすことができるということです。DAWが登場した時代からCubaseは存在していたので、DAWの歴史を切り開いてきたソフトでもあります。
今でこそ高機能なDAWが増えてきましたが、それらの機能の基礎を創り出してきたのがCubaseです。
機能面で初心者にとって嬉しいものとしては、ワンクリックでいろいろなコードを瞬時に入力が可能な「コードアシスタント機能」、Cubaseのコード機能と組み合わせることで自動で歌のハモリが作れる「VariAudio」というピッチ修正ソフトが付属しているなど様々なものがあります。
ボーカロイドを使う方にも人気があります。CubaseにはDAWと連動して動かせるボーカロイド用エディター「VOCALOID Editor for Cubase」があり、これによりCubaseでボーカロイドの打ち込みが大幅に効率がアップできます。この機能を決め手にCubaseを選ぶボカロユーザーも多く、様々なユーザのニーズを満たすことができるのです。
Cubaseのラインナップ
Cubaseには3つのラインナップがあります。
最上位版の「PRO」はハイクオリティを誇るオーディオエンジン、作曲、レコーディング、ミキシング、編集のための先進的なオーディオ&MIDI ツールを数多く搭載しています。エレクトロニックミュージックのトラックメイキング、ロックバンドの録音からオーケストラのレコーディングまで、世界中のトッププロデューサーやミュージシャンに支持されるプロフェッショナルモデルです。
MIDIトラック数・オーディオトラック数が無制限、インストゥルメントのサウンド数が3,000以上、コードアシスタント機能付属など、どの機能をとっても最上級。なお、MusicXMLの読み込み・書き出しに対応しているのはPROのグレードのみです。
ミドルグレード版の「ARTIST」は上位グレード版”Cubase Pro”と同じテクノロジーに基づいた音楽制作ソフトウェアです。作曲、レコーディング、ミキシング、編集など音楽制作に必要な機能を厳選。
MIDIトラック数は最大128、オーディオトラック数が最大64、インストゥルメントのサウンド数が2,600以上など、通常の使い方であれば十分な機能を有しています。MIDIエフェクト機能はARTIST以上のグレードから搭載しています。
エントリー版の「ELEMENTS」は自宅のパソコンをスタジオに変えてくれるミュージックプロダクションシステムです。Cubaseシリーズの上位グレードと同じテクノロジーを基に、オーディオ、MIDI、バーチャルインストゥルメント、エフェクト、ミキサー、コード機能などを厳選して搭載で、初心者にもおすすめです。
なお、体験版では今までCubaseシリーズを使ったことがない場合、ELEMENTSのみ30日間体験版として利用することができます。
- 対応OS:MacOSX(10.14以降)、Windows10
- 価格:13,189円(税込)〜
- 無料トライアル:あり(30日間)
- 備考:国内トップシェア、日本語での情報も豊富
Ableton Live

Ableton Liveは「Cubase」と並び、楽譜作成ソフトとしては非常に有名です。海外では「Cubase」よりも「Ableton Live」の方が高シェアを誇ります。
エレクトロ系やダンスミュージック系など、ループベースの音楽が得意なDAWであり、数多くのEDMプロデューサーが使用していることで知られています。もちろん、バンドサウンドやJ-POPなど、あらゆるジャンルを作ることができます。
昔こそ「Ableton Liveは音が悪い」という評判があった時期もありますが、それはかなり昔であり、最近では音質もよくなっています。付属音源やプラグインの質も高く、他の追加音源やプラグインを買わなくても十分に高いレベルでの制作が可能です。
Ableton Liveの特徴は、非常に高機能でありながら直感性に優れており、他のDAWで何クリックも必要な作業がLiveならワンクリックで済んでしまうことです。筆者も、この作業効率の良さから、少し前までメインのDAWとして使用していました。「PUSH」など、Ableton Live専用の外部コントローラーなども多く、これらを使ってさらに制作効率をアップすることが可能です。
「Live」の名の通り、リアルタイム性に優れ、音を止めることなくその場でどんどんと制作していける点も魅力です。ライブパフォーマンスにも使用されることも多く、DJプレイにも使えます。
Ableton Liveにはラインナップとしては最上級モデル「Suite」、スタンダードモデルの「Standard」、エントリーモデルの「Intro」があります。そして無料体験版では「Suite」の全機能を試すことができます。無料体験版では旧バージョンからのアップデート時にも旧環境をそのままで利用できる点に注目です。
最上級モデルの「Suite」ではサウンド数が5,000種以上で、大量のエフェクトに対応しているのが他グレードと比較した特徴。「Max for Live」にも対応しており、独自の様々なインストゥルメントとデバイスが使用可能となります。
ミドルグレードの「Standard」ではサウンド数が1,800種以上で、エフェクトに対応しているのが他グレードと比較した特徴。他社と異なり、ミドルグレードでもオーディオトラックとMIDIトラックの上限が無制限となっています。
オーディオのスライシング、オーディオからMIDIへの変換、ビデオのインポート・保存は「Standard」以上で搭載されていますので、個人的には後述のIntroでは欲しい機能が少ないのかなという印象です。
廉価グレードの「Intro」はサウンド数が1,500種以上で、エフェクトにも一部対応しています。オーディオ・MIDIのトラック数は最大16となります。
DAWとして最低限の機能を残してあるのみとはいえ、Abletonの醍醐味を十分味わうことができますので、初心者でも憧れのAbletonを使ってみたいという方にはおすすめです。
- 対応OS:MacOSX(10.9以降)、Windows7/8/10
- 価格:10,799円(税込)〜
- 無料トライアル:あり(90日間限定)
- 備考:海外では高い支持。ライブミュージックに定評。
Studio One

Studio Oneもまた有名なソフトであり、PreSonusが提供するDAWソフトです。2009年に登場してから、着々と国内シェアを伸ばし今ではCubaseに迫る勢いがあります。
DAWの中でも後発である点を活かし、それまでのDAWの機能を操作性・視認性を向上させながら綺麗にまとめ、新機能も搭載しているという総合的なバランスの良さが特徴です。64bitにも対応しており、音質も他のDAWと比較して評判がよく、大きな欠点も見当たりません。
DAWを初めて触る初心者にもわかりやすいインターフェイスでありながら、プロが求める本格的な操作・難しい処理も可能で、将来的にプロとしての活動を目指している方にもぴったりです。実際にプロで使用している人も多くいます。
Studio Oneは制作だけでなく、マスタリング機能が非常に優れています。楽曲制作には音を混ぜる「ミキシング」という作業のあと、音圧を上げる・データに楽曲情報を書き込む「マスタリング」といった作業があるのですが、Studio Oneは他のDAWではマスタリングの面倒な処理を簡単に行うことができます。
楽曲制作は他のDAWで行い、ミキシングやマスタリングはStudio Oneで作業するという使い分けをするユーザーも多く、動作も軽いので着実にシェアを伸ばしています。
ラインナップは最上位版の「Professional」、プロでも通じる「Artist」、無料版とは言えハイスペックな「Prime」と、必要な機能に合わせたグレードを選ぶことができます。
最上位版の「Professional」では64bit対応による高音質再生、スコアエディター機能、ビデオの読み込み・書き出しに対応しています。
ミドルグレードの「Artist」では各種エフェクト、バーチャルインストゥルメンタルのシンセサイザー機能・位相分析に対応しています。
- 対応OS:MacOSX(10.7以降)、Windows7/8/10
- 価格:10,593円(税込)
- 無料トライアル:あり
- 備考:多彩な入力機能。使いやすいインターフェイス。
Apple Logic Pro

Logic ProはAppleが提供するデザイン・操作性がOSに非常に近く、普段使っている感覚で音楽制作ができるソフトです。MacOSのアップグレードへの対応もどのソフトより早く、Macユーザーの方は是非ともチェックしておきたいですね。
オーディオやMIDIのレコーディングの操作性が高く、プロ・アマ問わず高い人気があります。中には、Logic Proを使うためにWindowsからMacに乗り換えたという人もいますね。
iPhoneやiPadでGarageBandに慣れている人は、仕組みなども理解しやすいでしょう。
最初から高品質なループ素材や、プラグイン、完成度の高いソフト音源などが大量に付属しており、購入したその日から本格的な音楽制作が可能です。
さらに、ドラムの自動打ち込み機能やテンポ検出機能など、初心者に嬉しい機能も多数搭載しています。
本格的な仕様でありながらも、フルバージョンでも非常に安く、コストパフォーマンスに優れているという点も魅力的です。
- 対応OS:MacOSX(10.7以降)
- 価格:エディター版は24,000円(税込)
- 無料トライアル:なし
- 備考:音質がよく、使いやすさは流石Apple。Macユーザならおすすめ。
納得ゆくDAWソフトを選び、ぜひ最高の作品を作り上げてくださいね。