2019年2月13日、国税庁は「拡大税制研究会」にていわゆる節税保険の法人税法上の取り扱い(通達)の抜本的な見直しが公表した。以来、節税保険を商品として販売していた保険会社各社は戦略の大幅な見直しを迫られた。今回はその後の節税保険の動きを見ていこう。
節税保険とは?
そもそも節税保険のスキームはどのようなものだったのか、復習しておこう。
節税に利用される保険は定期保険と呼ばれているものだ。定期保険は死亡や高度障害の状態になったときに保険金が支払われ、満期に生存していても支払った保険金は返還されない。そのため、税務会計上は支払いの都度、費用として損金計上されるのが原則となる。
一般に歳を重ねるごとに死亡率が増加するため、定期保険の保険支払額は加齢により増額する。高齢となってからの負担を軽減するため、保険期間の保険支払額を一定にする(平準化された)商品も現れた。
金額が平準化されていれば、保険期間の前半に支払う保険料の中には、加齢後の保険料についての前払い部分が含まれる。そのため途中解約することで解約返戻金が発生することになる。この仕組みを利用すれば、解約返戻金がピークの時に解約することで保険支払による経費を先に計上し、解約返戻金による収益を後に計上することが可能となる。
この収益を認識するタイミングを後にずらすことこそが節税保険の本質である。税金の支払いを遅らせることが可能となり、節税保険をロールすることで事実上課税を逃れることが可能になったのだ。この課税逃れが事実上「脱税」として見なされ、国税庁が目をつけたというのが大まかな流れだ。
当時発売されていた節税保険
2017年から2018年が節税保険の全盛期だった。以下のように各社がこぞって節税保険を販売していた。
会社名 | 商品名 | 解約返戻金率 | 発売日 |
---|---|---|---|
日本生命 | プラチナフェニックス | 86.2% | 2017.4 |
東京海上日動あんしん生命 | 災害補償期間付定期保険 | 83.2% | 2017.10 |
アクサ生命 | フォローアップ | 86.4% | 2018.2 |
朝日生命 | グランドステージ | 83.9% | 2018.3 |
ネオファースト生命 | ネオdeきぎょう | 85.6% | 2018.3 |
三井住友海上あいおい生命 | オーナーズロード | 83.7% | 2018.7 |
マニュライフ生命 | 災保重点期間付定期保険 | 87.8% | 2018.8 |
エヌエヌ生命 | 介護・障害保障型定期保険 | 84.2% | 2018.11 |
※解約返戻金率は販売されていた当時の数値
最も初期に発売されていた日本生命のプラチナフェニックスは解約返戻金率も高く、利用者は私も含めて身の回りの経営者のかなりの人が利用していた。原理的には、利益の多い年は利益を繰り延べ課税額を最小化し、赤字の年に節税保険のロールをやめることで、トータルで支払う税金を大幅に減らすことが合法的に可能だったのだ。
節税保険規制の内容
2019年7月上旬に死亡定期保険の新制度の詳細が明らかになった。
ざっくりいうと、全額損金とはならないものの、4割の損金算入が可能ということでまとまった。
従来の取り扱いでは解約返戻率が90%を超えていても支払保険料の1/2を損金に計上できる場合があった。
節税保険規制の通達では、高い解約返戻率と毎月の保険料の損金化が両立しないようになっている。具体的には、法人を契約者とし、役員または使用人等を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険または第三分野保険で、最高解約返戻率が50%を超える商品については、最高解約返戻率に応じ3段階に区分される。そして支払保険料に一定割合を乗じた金額を一定期間資産に計上し、残額を損金の額に算入するという取り扱いとなった。
最高解約返戻率 50%超70%以下
保険期間の40/100に相当する期間を経過するまで、支払保険料の40/100を資産計上
最高解約返戻率 70%超85%以下
保険期間の40/100に相当する期間を経過するまで、支払保険料の60/100を資産計上
最高解約返戻率 85%超
保険期間の開始の日から最高解約返戻率となる期間終了の日まで、支払保険料の70/100(保険期間開始の日から10年を経過する日までは90/100)を資産計上
あまり大きく取り上げられないが、定期保険だけでなく、医療保険等でも損金参入額が変更されている。法人加入の医療保険については、全額損金算入そのものは残されたものの、1人の社長が新規で加入できる医療保険の総額について尊貴算入できるのは年30万円(月2.5万円)と上限が設けられた。
節税保険規制を巡る疑問
しかし、考えてみれば節税保険だけがターゲットになるというのは不可解である。
なぜならば課税計画を立てること自体は、大手法人や経営者であれば基本であり、例えば資産購入による減価償却によりどの年度で利益を計上させるか自由に調整できる。節税保険でも最終的にはどこかで税金を支払うことになるのだから、通常の課税対策とは何も変わることはない。
加えて、保険会社としても保険契約が増えることで、保険会社の運用金額が増え、市場が潤うという好循環が生まれる。節税保険の市場は、保険料ベースで年あたり7,000億円から1兆円程度であると言われており、定期保険市場は2.6兆円程度であるから、節税保険規制の影響は無視できない。プラチナフェニックスは1年半で7万件を超える契約数となった。
国税庁は予定通りに徴収できたと満足しているかもしれないが、全体最適化の観点で言えば次元が低すぎる。むしろ、タックスヘイブン(租税回避地)を通した税金逃れや大して仕事もしない国会議員へのカンパへの課税を強めるなど、根本的にレベルの低い国税庁へメスを入れるべきだろう。