2020年上期には経済対策として様々な助成金・給付金が交付されることになりました。これらの補助金の多くは課税の対象ですが、一部の国民から疑問や不満の声が聞こえてきます。今回は、所得税の課税・非課税の基本的な考え方を見ていきましょう。
助成金・給付金への課税には不満が続出
新型コロナウイルス感染症に伴う緊急経済対策として、休業や営業自粛をせざるを得なくなった事業主に対し、国から様々な助成金が支給されることになりました。この助成金により、「自粛を求めるのに補償はしないのか」という批判はある程度収まりましたが、今度は「国が支給する補助に課税するとはどういうことだ」という声が一部の事業主から上がっています。
そのような事業主は「非課税は限定的」「助成金を充てても赤字なら課税されない」「他の事業者との課税の公平性が保てない」と言われても、なかなか納得がいかないようです。
コロナ関連の補助金と課税・非課税
特別定額給付金(1人10万円)
課税・非課税でまず気になるのが、国民全員に支給された1人10万円の特別定額給付金でしょう。
特別定額給付金は、外出自粛で感染拡大防止に協力している国民全員に対し、家計支援のひとつという位置付けで支給される給付金です。1人あたり10万円が支給されます。この特別定額給付金は新型コロナ税特法第4条第一号により非課税所得とされます。
休業協力金
事業主に対する助成金でもっとも支給対象が多いのが、この休業協力金です。
休業協力金は、都道府県から一定期間に渡り休業や営業時間の短縮などを要請された事業主に対して支給される協力金です。自治体により、名称や支給額が異なります。東京都の感染拡大防止協力金については、一律50万円(2事業所以上で自粛する事業主には100万)です。休業協力金は課税対象です。
持続化給付金
持続化給付金は、感染拡大防止対策により売上の減少などの影響を受けた事業主に対し、事業継続のために「事業全般に広く使える」ように経済産業省から交付される給付金です。中小法人等に対しては最大200万円、個人事業主に対しては最大100万円がそれぞれ支給されます。持続化給付金は課税対象です。
制度内容や対象者についてはこちらから。
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、コロナにより事業に大きな影響を受けても従業員に休業手当を支払うなどで雇用維持に努めている事業主に対し、厚生労働省が交付する助成金です。事業規模や従業員への支給割合により異なりますが、中小事業者に対して支払額の8割~9割が支給されます。雇用調整助成金は課税対象です。
ただし、休業協力金への課税については、あくまでも支給を決めた「財務省」が出した見解であり、持続化給付金・雇用調整助成金についても担当する省庁が出している見解です。国税庁より別途通達があった場合には変更の可能性もあります。
しかし、下記の理由により、各種助成金へ課税される方針は変更されず、免れられないと考えられます。
所得税法における「課税」「非課税」の違い
所得税法での課税対象とは?
所得税法では原則、個人の所得はすべて課税の対象としています。その根拠は「人が何らかの理由でお金を得ているなら税金を支払う力(担税力)があるはず」と考えられるためです。所得の定義は条文では明確にされていませんが、過去の判例(※)では「非課税という規定が設けられているのでない限り、担税力を増加させる経済的な利益は課税所得になる」としています。
そして、所得税法第94条に「事業所得を生ずべき事業の休業により得た補償金の類は課税の対象とする」旨が書かれています。事業主に対する国・地方自治体からの助成金は課税対象であることは、この法律を根拠にしています。
上記の所得税法の考え方を上記のコロナで支給される助成金・給付金に適用すると、特別定額給付金のみが非課税、それ以外が課税になるわけです。
※横浜地裁平成元年7月22日判決、昭和50年10月28日静岡地裁判決及び昭和51年9月13日東京高裁判決を参照
特別定額給付金への非課税の是非
非課税所得には、その背後に「最低限の生活の保障」という考え方があります。
特別定額給付金が非課税とされる根拠を考えてみます。所得税法第9条で「非課税所得とされているもののうち社会的・政策的配慮によるもの」と他の規定で「非課税とされているもの」に共通する概念は「最低限の生活の保障」です。最低限の生活の保障という文言は、憲法25条に生存権を保障する条文があります。
生活資産の売却益や生活保護費、遺族年金や児童扶養手当が課税されてしまうと、人々は安心して生活を継続することができません。特に低所得者や単親者の家庭には切実な問題です。こういった配慮から非課税規定が設けられています。家計に対する支援という位置づけで支給される「特別定額給付金」も同様の考え方で非課税となることは妥当であると言えるでしょう。
助成金・給付金への課税に対する反対は妥当か?
国による経済補償の制度内容を見ると、その対象を事業主に限定しており、目的は必要経費の補填であり、心身損害の賠償や生活費の補填を前提としていないことは明らかです。
もし国からの事業主に対する給付金を非課税とし、かつ支払った家賃などの支出を必要経費と認めてしまった場合、その金額は二重に控除されてしまい、補償を得ていない他の事業主との間で課税の公平性という観点で影響があります。
さらに、課税の公平性が揺らぐと、さらなる問題を引き起こす可能性があります。同じ50万円に対して、一方は働いて収入を得たのに課税され、もう一方は休業協力により得られた補助で課税されないとなると、課税が不公平なだけでなく「働かない方が楽で事業リスクをとる必要がない」という印象を国民に与えてしまいます。
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