若いうちにリタイアを果たし、不労所得で自由に暮らす──。多くの人が社会のしがらみから解放される「FIRE」ライフに憧れを持っており、日本でも非常に話題となっています。FIREを実践してみたという人の中には様々な情報を出している人もいますが、実は真に受けると非常に危険なことをご存知ですか?今回はFIREの不都合な真実を紹介していきましょう。
FIREとは?
FIREとは、「Financial Independence, Retire Early」の略であり、経済的独立と早期退職を目標とするライフスタイルのことです。この生活スタイルはFIREムーブメントとして、ブログ・ポッドキャスト・オンラインフォーラムで共有されている情報を通じて、2010年代より大きな注目を集め、特にミレニアル世代に人気が高まっています。
FIREを達成するための方法は、収入増・支出減を行い意図的に貯蓄率を最大化することで、FIRE達成後の生涯支出を賄うのに十分な不労所得を得ることにあります。経済的独立を達成すると労働所得は付属的となり、標準的な定年よりも数十年早く退職が可能になります。FIREムーブメントの支持者によれば、以下の2つを達成するとFIREを達成できるとされています。
- 貯蓄率を高め、生活費25年分を貯蓄する。
- 投資のインフレ調整後の利回りを4%以上にする。
FIREムーブメントの背後にある主要なアイデアは1992年には枠組みが作られており、本格的に世の中に広まったのは2011年に開始されたブログ「Mr. Money Mustache」が、節約を通して早期退職を達成するという考えに関心を寄せ、FIREムーブメントの拡散に大きな影響を与えたとされています。
最近ではFIRE本と呼ばれる書籍も書店に並ぶようになり、代表的なものとしては以下の3冊があげられます。
FIREの4%ルールに対する不都合な真実とは?
FIREを実現する前提として、資産の取り崩しを4%とするルールがあります。もし、物価上昇率と同じ利率で無リスクで運用できる方法が仮にあったとすれば、その場合は当初の資産基準で年間4%ずつ取り崩すと単純に25年で資産は無くなります。
しかし、トリニティ大学のPhilip L. Cooleyらが、1926年~1995年の過去データを使って計算した所、アメリカ居住者が資産をアメリカ株式(S&P 500)とアメリカ債券(長期高格付け社債)で株式と債券を75:25にして資産運用し、インフレも加味して初期資産の4%に相当する金額を毎年取り崩した場合、資産が0ドルより多く残る確率は、25年後は確率100%、30年後は確率98%という計算結果になりました。また、ジェレミー・シーゲルの調査によると、1980年~2012年のデータでは30年資産を保有する場合には、株式を68%とするのが現代ポートフォリオ理論で最もリスクが低くインフレ調整後の利回りは5%台となります。
つまり、4%ルールとは、過去の市場相場をもとに考えたときに、資産を4%ずつ取り崩していけば資産はなおも残り続けるというシミュレーションを背景としています。
少し考えてみれば、これはおかしいとは感じませんか?
過去の経済成長を前提に資産を運用することで、将来の資産価値も同じだけ成長すると見積もることには違和感があります。どれだけ過去に株式市場が成長していたとしても、その後も同じだけ成長するとは誰も予想できません。そして、資産の取り崩しに関する分析は株式市場の持続的成長が顕著なアメリカが基準となっており、日本ではなおバブル崩壊前の株式市場の水準であることを考えれば、アメリカとは同じでないはずです。さらに言えば、2008年のリーマンショックのように大きな経済危機が発生すれば保有資産は大きく目減りし、資産を予想外に大きく取り崩してしまうことになります。
FIRE実践者が提供する情報は真実なのか?
最近では多くの人はFIRE実践に関する情報を世の中に出すようになりました。すべてがそうだとは言いませんが、インターネット上のどれほどが真実の情報なのか、あなたは確信を持てますか?
先行してFIREを実践している方の中には、確かに十分な資産の蓄えをもって完全に経済的な自立を実現している方もいるのかもしれません。
しかし、うがった見方をしてみれば、先行してFIREを実現した方であっても、最初に紹介した3冊の書籍のように、早期にリタイアしたとは言っても本を出版して収入を得なければ、今後の生活に不安があるという見方もできるでしょう。
実際、FIREを実現したと公にしている方であっても、投資による収入以外での収入を完全に絶っているわけではなく、本を出版したり、情報発信をすることで広告収入を得ていたり、中にはカフェでアルバイトをしている方も多いのです。
(なお、カフェでのバイトについては、アメリカにおいて健康保険を目当てにした、意味のある行為のようです。これはバリスタFIREと呼ばれているらしい。バリスタと火の意味でのFIREがかかっていて、なんかかっこいい。)
つまり、FIREを実現したと言っても、完全に遊んで暮らしているというわけではなく、何らかの副収入を得て生活していることを、皆さんは忘れてはいけません。
誤った投資手法の布教による不都合な真実?
新型コロナウイルス(COVID-19)が世界を騒がす直前の2019年12月末まで、いくつかの国で外交的な問題があったとはいえ、世界的に株式市場は好調でした。そして、その中でとても流行っていた投資手法がありました。それは「高配当利回り投資」と呼ばれるものです。
2019年末まで株式市場はバリュー相場と呼ばれる、割安株が好調な市場でした。(対極にあるのがグロース相場と呼ばれる、割高であっても成長性が評価される市場です)バリュー相場であったこともあり、当時はとにかく「配当利回り」つまり配当が高くかつ株価が割安の銘柄に対して投資を行うよう、様々なメディア・投資情報発信する個人・プロ投資家がもてはやしていました。
しかし一転してその半年後の2020年6月には完全に市場はグロース相場、つまりテック系のイケてる企業の成長性が評価される相場となる一方、バリュー系の株式は完全に沈黙しているような相場でした。
ご存知の通り、それまで高配当を維持してきたような有名企業が配当見送りや大幅な配当減額を実施したことで、多くのバリュー投資家・高配当銘柄への投資家は苦戦しており、少なくても2020年はその傾向が続くと考えられています。
実は、当初のFIRE本や情報提供サイトでは、リタイア後の収入の下支えとして、この高配当投資が強く推奨されていたのです。「株式を持っているだけで配当をもらえるのであれば、もちろんより高い配当を選ぶべきだろう」というバイアスがFIRE実践者にはあったのです。
投資理論的にはこの高配当利回り投資が悪いとは言えませんが、少なくても過去に行われたFIREに関するシミュレーションで学術的に信頼できる精度で行われたものは市場全体へ投資したものであり、決して高配当利回り投資に特化したものではなかったのです。
最近世の中に出ているFIRE本では、以前のような高配当利回り投資を推奨する記載は内容が修正されていることもあり、あまり目立ちません。しかし、FIREを実践したといっても数十年の単位でFIREに成功している方の数は控えめに言って非常に稀であり、それまでの経験則や提供する情報は必ずしも正確でなかったり、そもそも結論に至るのが尚早という内容が散見されるのが事実です。
まとめ
FIREムーブメントのように時代の流行りとして特定のライフスタイルが話題になることはあります。もちろんそのような生き方は非常に魅力的で、多くの人が思い描く理想的な生活なのかもしれませんが、世間に出てくる情報の正確性や、その裏にあるFIRE失敗談などは中々表には出てきません。皆さんにはFIRE実現に向けて正確な情報を得て、理想のライフスタイルを実現してほしいものです。
次回はFIRE実現に向けて行うべきことを紹介していきましょう。